鍼灸基礎知識

目次

鍼灸基礎知識

病気は体の機能のバランスが崩れることで起こる

東洋医学は、「陰・陽」「虚・実」「気・血・水」「五行」などいくつかの理論から成り立っていますが、最も基本となっているのが、「気・血・水」の概念です。
気・血・水三つのうち、血と水は一般の人でも比較的理解しやすいでしょう。血はほぼ血液に相当し、水は血液以外の体液、つまりリンパ液やその他の水分に相当します。これに対して、気は西洋医学にはない独特の概念で、人間の体内を巡っている仮想的な生命エネルギーのようなものです。血も水もこの気にしたがって体内を循環しているとされ、気・血・水のなかで最も健康を左右する要因とされています。
この気・血・水をはじめ、陰陽、虚実、五行などの観点から患者を診察し、患者の健康状態を判断することを「証」を得るといいます。証は一見すると西洋医学における診断と似ていますが、西洋医学の診断はたんに病名を特定するだけなのに対して、証を得ることはそのまま治療法の決定をも意味しているところが大きく異なります。その理由は、東洋医学の基本理念にあります。
東洋医学では、病気の原因は、前述の気・血・水、陰陽、虚実などのバランスが崩れるために病気になると考えます。そして、気・血・水や陰陽などの組み合わせに応じて、それぞれの治療法が決まっています。
証を得ることは、その組み合わせを知ることなので、証が得られれば自動的に治療法も確定するわけです。鍼灸についていえば、全身に存在する2000以上のツボを、その証に応じて使い分けることになります。
多少語弊はありますが、西洋医学が病気に応じて治療法を決定するのに対して、東洋医学では症状に応じて治療法を決定するといえます。
ここで大切なことは、「症状に応じて治す」ということは、「症状を治す」ということではないということです。病気の原因を体の一部の異常と捉えるか、全体のバランスの異常と捉えるかが異なるだけで、病気の根本的な原因を除去するという点では西洋医学と同じなのです。
西洋医学では、体の一部に生じた異常がいろいろな症状を引き起こすので、その異常を治せば症状が治まると考えます。
これに対して、東洋医学は、全体のバランスが崩れることによって症状があらわれ、バランスさえ回復させれば、自然治癒力によって病気は治る。どのようにバランスが崩れているかは、症状によって判断できるので、症状を正しく把握できたなら、自然と治療法も定まるとしているのです。

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神経や内分泌系に働きかけて病気を治す

 世界的に研究が進むにつれて、鍼治療の効果は、以下にあげる生理作用によるということがわかってきました。
一つは調整作用で、鍼の刺激によって組織や器官の機能を回復させる力です。鍼による調整作用には相反する二つの効果があり、疼痛やけいれんなどのように機能が異常に高まっている状態には鎮静効果を発揮し、しびれなどの知覚マヒ、あるいは運動マヒといった神経や臓器の機能低下に対しては、興奮作用によってその部分の働きを高めます。
 二つめは、血行促進作用です。この作用も二つの活用法があり、肩こりなどの筋肉痛や動脈硬化などの治療では、患部に鍼を打つことによってその部分の血管を拡張させ、血行を促します。一方、関節炎などで炎症が起こっているときには、体の健康な部分に鍼を打つことで、患部に集まっている血液を健康な部分に移動させ、炎症を鎮めます。
三つめは、免疫を活性化する働きで、免疫システムの主役となる白血球を増やしたり、免疫システム全体を活性化させる作用があります。鍼治療が感染症などにかかりにくい体質をつくるのに役立つのも、この免疫賦活作用によるものです。また、炎症が起こったときに、白血球を炎症部位に集め、炎症によって細胞からしみ出した異物を白血球に吸収させる働きもあります。
これらの作用がなぜ得られるのかについては、残念ながらまだよくわかっていません。現在のところ、自律神経をはじめとした神経系、そして神経系とともに体内の情報伝達を行なう内分泌系が、鍼の刺激を受けてこれらの作用をもたらすと考えられています。

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鍼治療が有効な主な病気

生活習慣病からうつ病・不妊症まで、鍼治療の広汎な効果

鍼治療は、さまざまな病気に効果があり、実際、中国では西洋医学とほとんど同じ範囲の病気に対して行なわれています。
日本では肩こりや神経痛の治療法程度にしか考えられていない鍼治療ですが、糖尿病や腎臓病、動脈硬化症といった生活習慣病をはじめ、不妊症などの内分泌疾患、パーキンソン病などの神経疾患など、その治療範囲は実に多岐にわたっています。
ここでは、それらのうちの代表的な病気について、西洋医学による治療法とともに、鍼灸の治療法を簡単に紹介します。西洋医学ではなかなか治らない病気も、鍼灸なら確実な効果が期待できる場合が少なくありません。西洋医学と鍼灸は、それぞれによいところがあるので、両者を適切に組み合わせて治療するための、参考にしてください。

●動脈硬化症

全身に栄養と酸素を供給している動脈の弾力性が失われ、血管壁が硬くなったり、血管壁内部にさまざまな物質が沈着して血液の通り道が狭くなり、血流が停滞した状態を動脈硬化といい、動脈硬化が原因で、体にあらわれる症状を動脈硬化症といいます。脳卒中の主要な原因であり、また心臓の血管に動脈硬化が起これば、狭心症や心筋梗塞を引き起こします。

【原因】
動脈硬化の原因は多種多様ですが、最も注意しなければならないのが、高脂血症、高血圧症、糖尿病、肥満です。最近話題のメタボリックシンドロームでもわかるように、これらの病気と動脈硬化は密接に関係していて、脳卒中や心臓病など、生活習慣病の発症リスクを高めます。
【症状】
動脈硬化そのものには症状がありません。ただ、進行すると血流障害が生じて、脳卒中をはじめとした合併症を起こします。一般に動脈硬化の症状といわれているのは、そうした合併症の症状なので、症状があらわれたときには動脈硬化がかなり進行していることになります。健康診断などを積極的に利用して、合併症を起こす前に治療することが大切です。
【治療】
抗血栓剤や血管拡張剤などが使われますが、中心となるのは食事療法や運動療法です。血圧が高い人は塩分の摂取を控えめにし、高脂血症や糖尿病、肥満などがある場合には、1日のカロリー摂取量を体重に応じて制限します。
◆鍼治療
鍼治療には、血液中のコレステロールを減少させて血液をサラサラにしたり、血管内にたまったコレステロールを取り除く働きがあります。そのため、食事療法や運動療法と並行して、鍼治療を行なうと効果的です。また、耳に鍼を打つ耳鍼は、食欲の亢進を抑える効果があるので、動脈硬化の危険因子である肥満の予防になります。
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●糖尿病

血液中の糖分が異常に増加して、さまざまな症状を引き起こす病気で、生活習慣病のなかでも罹患率の高い病気の一つです。血糖値のコントロールさえしっかり行なえばけっして恐ろしい病気ではありませんが、仕事などにかまけて食事療法、運動療法を怠るといろいろな合併症を引き起こし、腎臓や心臓などに重大な障害を引き起こします。

【原因】
血液中の糖分濃度を調節するインスリンというホルモンが分泌されないために起こる1型糖尿病と、分泌されていても十分に働かないために起こる2型糖尿病があります。前者はウイルス感染や自己免疫が、後者は遺伝的素因や食事などの生活習慣が原因と考えられています。
【症状】
尿の量が増える、のどが渇く、体重が減るなどのほか、眼のかすみや眠け、吐き気、運動持久力の低下などが起こります。ただ、1型糖尿病の場合はこれらの症状が早い段階であらわれますが、2型糖尿病では発病から数年、ときには数十年の間、はっきりとした自覚症状がないまま徐々に病気が進行します。
【合併症】
血糖値が高くなると、糖分の複合物質が血管壁に蓄積されて動脈硬化が起こり、血液の流れが悪くなります。とくに神経と皮膚への血液の供給が低下するため、神経障害や皮膚の潰瘍などが起こりやすくなります。また、腎臓への血流が低下した場合には、糖尿病性腎症が起こり、腎不全に移行します。目の血管に障害が起きた場合には失明することもあります。
【治療】
1型糖尿病の場合は、インスリン注射が必要になります。2型糖尿病では各種の経口血糖降下剤が用いられますが、食事療法と運動療法が欠かせません。食事療法は、1型糖尿病の場合にも重要です。
◆鍼治療
2型糖尿病に対して鍼治療を行なうと、血糖値が下がります。2型糖尿病ではインスリンを分泌する膵臓のランゲルハンス島細胞が不十分ながらも機能しており、鍼治療によって低下していたランゲルハンス島細胞の働きが活発になるためと考えられています。
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●腎炎

腎臓は全身をめぐってきた血液から有害な老廃物を取り除き、尿と一緒に老廃物を体外に排出する重要な臓器です。腎炎は、さまざまな理由により、その腎臓が十分に機能しなくなってしまう病気です。急性腎炎と慢性腎炎に大別されますが、原因や病気の進み方などの点でいくつものタイプがあることから腎炎症候群と呼ばれることもあります。

【原因】
急性腎炎は、扁桃炎などの上気道感染症がきっかけとなって起こります。慢性腎炎は、急性腎炎が慢性化するケースと、最初から慢性腎炎として発症するケースがあります。
【症状】
急性腎炎では、尿量の減少やむくみ、血尿などが急激に起こります。ただ、約半数の人では、まったく症状が出ないこともあります。尿量の減少など前述の症状はほかの病気でもみられますが、扁桃炎などのあと1~2週間たってからこれらの症状が出た場合には、腎炎を疑ってみる必要があります。慢性腎炎は、まれに全身倦怠感や疲労感、食欲不振などを訴えることがありますが、特有の自覚症状がある場合は少なく、健康診断などで偶然に血尿やたんぱく尿が検出されて発見されるケースがほとんどです。
【治療】
急性腎炎では、安静を保つとともに、腎臓に負担をかけないように食事療法を行ないます。薬物療法では、利尿剤や降圧剤が使われます。慢性腎炎でも食事療法は重要で、同時に過労を避けるための生活改善も必要になります。薬物療法としては、血栓ができるのを防ぐために抗血栓剤が用いられるほか、降圧剤や免疫抑制剤なども使われます。
◆鍼治療
鍼を打つことによって、ナトリウムの排泄を促すプロスタグランジンEという物質の生成能力を高め、利尿を促進することができます。利尿剤と違って余分な水分まで排泄させることがないので、血液を異常に濃くすることも避けられます。塩分摂取量の多い日本人には最適の治療法といえます。
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●パーキンソン病

パーキンソン病は、神経伝達物質の一つドーパミンが不足するために起こる病気で、厚生労働省によって難病に指定されています。

【原因】
大脳と脊髄を繋ぐ中脳には、左右に2つ、肉眼で黒く見える黒質という部分があり、この黒質でドーパミンという物質をつくっています。ドーパミンは体の運動が円滑に行なわれるように調節する役割があるため、黒質の働きが何らかの原因で低下すると、ドーパミンが不足し、大脳の運動野から脊髄に達する神経経路である錐体外路に障害が起こり、手足がふるえ、体の動きがにぶく、ぎこちないものになります。
まれに遺伝的に発症するケースもありますが、大多数は遺伝とは関係なく起こります。遺伝性のものについては、原因となる遺伝子がいくつかわかっていますが、それ以外のものについては原因不明です。なお、脳梗塞や脳炎、薬の副作用などが原因で同じ症状が出る場合があり、それらはパーキンソン症候群と呼ばれます。
【症状】
パーキンソン病の症状としては、手足などのふるえ・関節や筋肉のこわばり・無動が三大兆候とされています。健康な人なら、長時間椅子などに座っていると、辛くなって手足を動かしたり組んだりしますが、パーキンソン病の人は、何時間でもじっと椅子に座ったまま同じ動作を続けています。
このような現象を無動と呼びますが、まばたきの回数も減り、歩行でも手をふらなくなります。動作が緩慢になり、椅子からさっと立ち上がることができず、徐々にテーブルに手をつき、ゆっくりと立ち上がります。
なお、ふるえは、最初は左右どちらかの手に始まり、やがて下肢にも起こります。安静にしていてもふるえるのが特徴です。最初のうちは起きたり起きなかったりですが、病気の進行にともない、持続的に起こるようになります。
【治療】
治療の基本は、抗パーキンソン病薬の内服治療です。中心になるのはドーパミンの前駆物質レボドパで、これによって脳内で減少したドーパミンを補充します。しかし、長期使用によって効果が減弱したり、自分の意志とは無関係に口元が動いたりする不随意運動があらわれることがあります。また、吐きけ、不整脈などの合併症がみられることもあります。このため、近年では、レボドパの内服量を減らし、ドーパミン受容体刺激剤などの補助薬を併用することが多くなっています。パーキンソン症候群の場合、パーキンソン病に比べると薬物療法の効果が低いと言われています。
◆鍼治療
パーキンソン病に鍼が有効なことは以前から知られていました。たとえば、この病気の患者さんは、背中の塊戸というツボが強く硬直していることが多く、ここに鍼を打つと症状がかなり軽減します。なお、2007年2月に韓国の研究チームから「脳内のマイクログリアの濃度が高まると炎症物質が増加し、ドーパミン神経細胞が破壊されてパーキンソン病を誘発する。鍼治療は、この過程で鍼がマイクログリアの働きを抑制して神経を保護し、パーキンソン病の進行を抑える効果がある」との研究成果が発表され、注目を集めています。
勿論、活脳鍼も相応の効果をあらわします。
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●潰瘍性大腸炎

大腸の粘膜に広範囲な炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる病気です。20~30歳代に多く発症しますが、50~60歳代の人にもみられます。いったんよくなったようにみえても、数か月から数年後に悪化することがあります。最近、日本でも急速に患者数が増えています。

【原因】
体内に異常な抗体ができ、それが大腸の粘膜を攻撃することなどが原因とされています。ただ、遺伝的素因や食生活、腸内の細菌のバランスの乱れなどが複雑に絡み合っており、すべてが明らかになっているわけではありません。肉体的、精神的ストレスで悪化することがありますが、原因というよりも誘因と考えられています。
【症状】
血便、粘血便、下痢、腹痛が主な症状です。ひどくなると体重減少や貧血、発熱がみられます。治療によって改善しても数か月から数年後に再び悪化し、それを繰り返す場合や、症状がだらだらとずっと続く場合などがあります。
【治療】
多くの患者さんは適切な治療で通常の社会生活が可能ですが、重症度により治療法が異なります。比較的軽症の場合は、サラゾスルファピリジンやステロイド剤の内服などで治療します。重症の場合は入院し、前述の薬の内服に加えて、ステロイド剤を点滴します。腸管を安静にするため絶食をし、点滴で栄養補給を行なうこともあります。最近は、炎症の原因となる白血球を血液から取り除く白血球除去療法が、副作用が少ないことから注目されています。これらの治療で改善せず激しい症状が続くときや、たびたび悪化して社会生活にさしつかえるような時には、大腸を摘出する手術が必要になります。
◆鍼治療
日本では、この病気の治療のために鍼灸院を訪れる人はまれですが、じつは潰瘍性大腸炎は、鍼灸がよく効く病気の一つなのです。中国では中医の治療範囲が広いため、鍼灸でこの病気を治療するケースも多く、ある病院の統計では、1678の症例のうち、約78%が完全に治癒し、約15%で高い効果が認められたとのことです。用いられるツボは患者さんによって異なりますが、腹部の中かんや尾底骨の下の長強などが中心になります。当院では、活脳鍼も併用します。脳は免疫系のコントロールセンターでもあるからです。
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●膀胱炎

急性膀胱炎と慢性膀胱炎に大別されますが、どちらも細菌感染によって起こるケースが大部分を占めます。膀胱粘膜の炎症のために、下腹部の不快感や頻尿などの症状があらわれます。膀胱炎の大半は女性に起こりますが、これは女性の尿道が男性に比べて短く、それだけ細菌が膀胱に侵入しやすいためです。

【原因】
尿道口から細菌が侵入して起こります。女性は尿道が短いことと同時に、尿道口が腟の近くにあるため、細菌との接触が多いことも、この病気にかかりやすい理由の一つです。なお、まれですが、前立腺肥大症や膀胱結石、膀胱ガンなどのために慢性膀胱炎が起こることもあります。
【症状】
下腹部の不快感や頻尿のほか、排尿痛や尿意切迫感、残尿感、下腹部痛、血尿、尿失禁などがみられることもあります。急性膀胱炎ではこれらの症状がはっきりあらわれますが、慢性の場合には自覚症状がないまま経過することも少なくありません。
【治療】
ほとんどの場合、細菌感染が原因なので、抗菌剤の内服が中心になります。ただ、前立腺肥大症など、原因となる病気がある場合には、治りにくいことがあります。薬が効きにくい場合や何度も繰り返す場合、血尿や発熱などをともなう場合などには、原因となる病気がないかを検査する必要があります。
◆鍼治療
足の小指にある至陰というツボは、尿量を増やす働きがあり、尿とともに細菌を体外に出してしまうので膀胱炎によく効きます。また、女性の場合、膀胱炎の症状とともに、下腹部の冷えを訴えるケースがよくみられます。これは下腹部の血行が低下しているために、この部分の免疫力が衰え、膀胱炎を引き起こすというパターンが考えられます。このような場合には、血行を促すためのツボを使います。鍼だけでなく、灸も効果があります。
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●気管支炎

気管や気管支の粘膜に、炎症が起こる病気を総称して気管支炎といいます。

【原因】
炎症の原因としてはウイルスやマイコプラズマといった病原微生物のほか、喫煙、大気汚染、有毒ガスなどがあげられます。
急性と慢性に大別され、急性気管支炎は主にウイルスなどの感染が、慢性気管支炎は喫煙などが原因となります。同じ気管支炎でも急性と慢性では発病のメカニズムが異なり、最近では慢性気管支炎を肺気腫とともに慢性閉塞性肺疾患(COPD)として扱うのが一般的になっています。
【症状】
せきと痰が中心となる点では、急性も慢性も同じです。
 急性気管支炎では、初めは痰をともないませんが、そのうちに膿のような色をした粘り気のある痰が出るようになります。激しいせきが長く続くと、胸や腹の筋肉が痛くなる場合もあり、ときには非常に強いせきのため、肋骨骨折を起こすこともあります。
一般に発熱が見られることは少なく、熱が出てもあまり高くなりません。ただし、マイコプラズマが原因の場合には、は発熱することがよくあります。
閉塞性気管支炎の代表的な症状は、体を動かした時の息切れです。慢性閉塞性気管支炎の場合、肺気腫(肺組織の破壊)と慢性気管支炎が混在しますが、慢性気管支炎の症状が強まると咳と痰が頻発するようになります。風邪などで咳や痰が増加し、痰の性状が黄色くドロドロしてきます。息苦しくゼイゼイすることもありますが、これは気管支喘息の時のように発作性の気道けいれんによるものではなく、痰などで気管に出入りする空気の流れが妨げられるからです。
【治療】
急性気管支炎の場合、対症療法として、せきを止めるための鎮咳剤や、痰を出しやすくする去痰剤、炎症を抑える消炎剤などを内服します。多くの場合、これらの薬物療法らより、1週間ほどで治ります。ただし喫煙の習慣のある人は、治るまでふつうより時間がかかります。1週間以上たっても治るきざしがみられない場合や、痰が黄緑色になった場合は、二次性の細菌感染が起きたと考えられるので抗生物質を用います。
慢性気管支炎では、気道内に痰をためないことが大切です。痰がたまったままにしておくと、空気の通りが悪くなるばかりか、細菌が感染して悪化しやすいからです。そのために、去痰剤を噴霧器で吸入したりします。
また、痰の量が増加したり、膿性の痰になったとき、あるいは発熱がみられた場合には抗生物質を用います。最近では、化膿性慢性気管支炎で症状が安定しているときでも、マクロライド系抗生物質を少量用いると症状の悪化が抑えられるといわれています。
閉塞性慢性気管支炎で息切れが起きている場合には、気管支拡張剤を用います。こうした対症療法とともに、原因を取り除くことも重要です。とくに、禁煙は必須条件です。また大気汚染地区や、粉塵や刺激性ガスのある職場への出入り、気道を刺激する物質との接触を避けましょう。
慢性気管支炎によって肺の機能が低下してきた場合には、残された機能を回復させるため、肺のリハビリが必要で、腹式呼吸や体位ドレナージを身につけたり、呼吸筋の力を強くするための運動、在宅酸素療法などが行なわれます。
◆鍼治療
肺機能の強化と免疫力の増強を目的とした治療が中心になります。具体的には、魚際、兪穴と募穴などのツボに対し、鍼または灸を行ないます。また、それと並行して、免疫力増強を目的とした全身治療を行ないます。
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●高血圧症

血圧は、心臓から全身に送り出される血液の量や、血管の広さ、弾力性などによって決まります。単純にいえば、心臓から送り出される血液量が多ければ、血圧もそれだけ高くなります。また血液量が同じなら、動脈硬化が進んで、血管の内腔が狭く、血管の弾力性が低くなるほど、血圧は高くなります。反対に、高血圧の状態が続けば、動脈硬化が進行しやすくなります。
このように高血圧は、動脈硬化との間に悪循環を生んで、さまざまな臓器の血管に障害が起こします。その代表的なものが、脳梗塞や脳出血といった脳卒中であり、狭心症や心筋梗塞などの心臓病です。糖尿病や腎臓病も、高血圧が大きな危険因子となっています。

【原因】
高血圧症には、血圧が上昇する理由が明確でない本態性高血圧症と、血圧を上昇させる何らかの原因疾患があるために血圧が上がる症候性高血圧症とがあります。本態性高血圧症は、高血圧になりやすい体質の遺伝が関係すると考えられていて、両親とも高血圧であれば、その子どもが高血圧になる割合は50~60%といわれます。さらに、食塩のとりすぎや肥満、精神的ストレス、寒冷、たばこやアルコールなどの要因が複雑にからみ合って発症します。
一方、症候性高血圧症の原因としては、腎臓病や内分泌異常などがあげられます。
【症状】
高血圧の人は、頭痛、肩こり、のぼせ、めまい、動悸などをよく訴えますが、多くの場合、これらの症状と高血圧の間には因果関係はないようです。一般に、高血圧そのものが何らかの症状を引き起こすことはないといわれており、症状がみられる場合には、高血圧による合併症が起こっていて、その結果として何らかの症状が起こるのです。
たとえば、手足にしびれを感じる場合には脳梗塞などの脳血管障害が、胸痛や動悸などがあれば心臓の障害、視力障害なら眼底出血などが考えられます。また、腎臓に長期間、高血圧の影響が及ぶと、腎硬化症を引き起こし、頭痛やめまい、血尿、けいれんなどがあらわれます。
【治療】
少しでも早いうちに治療を受けることが大切です。現在では、さまざまなタイプの降圧剤が開発されていて、最も効果的な薬が選択できます。ただし、高血圧症の治療で最も重要になるのは、食生活の改善や運動などの生活療法であり、それでも十分に血圧が下がらない場合に薬物療法が行なわれます。
とくに軽症の高血圧の場合、薬を用いるタイミングが難しく、一定の間隔をおいて血圧の変化を観察し、そのうえでまず生活療法を行ない、その効果をみながら薬物療法を開始するのが一般的です。
また、症候性高血圧症の場合は、原因疾患の治療も同時に進められます。
◆鍼治療
WHOが鍼の適応症としてあげているように、高血圧は鍼治療がよく効く病気の一つです。鍼による血行促進作用、神経や内分泌系に対する調整作用が、血圧を下げる働きをするものと考えられます。 患者さんによっても異なりますが、基本になるツボは、ひじにある曲池と、足にある絶骨、足三里です。このほか、百会、風池、腎兪、太陽など、高血圧に効くツボはいくつもあり、症状に合わせて使い分けます。活脳鍼のうち、唇鍼が奏功します。
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●変形性膝関節症

初期の症状は痛みです。長時間の歩行や重い荷物を運んだあと、和式トイレ、正座などによって、ひざを深く曲げたりしたときに起こります。進行するとひざの曲げ伸ばしが十分にできなくなり、骨の変形を引き起こすこともあるので、早めに治療することが大切です。

【症状】
典型的な症状は、歩行時や階段昇降時の膝関節の痛みです。とくに、歩きはじめと階段を降りるときに痛むことが多いようです。進行すると、関節の縁の骨が増殖しすぎて骨棘という隆起ができ、ひざへの衝撃を吸収できなくなります。こうなると関節だけでなく骨などの周囲の組織にも障害が及び、歩行時の痛みがいっそう強くなります。そして、痛みのために体を動かさなくなると、筋力が低下して関節への負担が増加し、痛みがますます強くなるという悪循環に陥ります。
【治療】
痛み対策として消炎鎮痛剤が用いられるほか、理学療法や、内視鏡による治療などが行なわれます。
◆鍼治療
関節の病気は、鍼灸が最も得意とする分野です。この病気の場合も、鍼による鎮痛効果とともに、血行促進作用によって、関節の新陳代謝を促すという働きが期待できます。
有効とされるツボはいくつかありますが、その一つに、手の小指の第2関節(指先から2番目)のツボがあります。これは韓国で発見されたツボで、キャップをつけたままのボールペンなどで押しても効果があるので、一般の人でも手軽に行なえます。
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●腰部椎間板ヘルニア

私たちの背骨は、椎体と呼ばれる骨がいくつも連なってできています。椎間板は、椎体と椎体の間で衝撃をやわらげるクッションの役割を果たしている組織で、その中央には、やわらかい髄核があり、その周囲を線維輪という比較的硬い軟骨が囲んでいます。椎間板ヘルニアは、線維輪にできた亀裂から髄核が押し出された状態をいいます。

【症状】
腰痛のほか、足の痛みやしびれ、マヒといった坐骨神経痛の症状が中心になります。坐骨神経痛は、片側だけに起こることが多いようです。また、急性と慢性があり、急性の場合は痛みが激しく、立ち上がれないこともありますが、慢性の場合には、症状が徐々に強くなり、腰痛や手足のしびれなどの症状が軽快と悪化を繰り返します。痛みのために背骨が左右どちらかに傾き、腰部の運動が制限されることもよくみられる症状です。
【治療】
安静を保ち、鎮痛剤などによる薬物療法のほか、腰椎の牽引やコルセットの装着、温熱療法といった理学療法で症状の改善をはかるのが基本です。多くの場合、これらの治療によって、2~3週間で症状が改善します。
◆鍼治療
椎間板ヘルニアでは、症状が安定するまで安静を維持することが重要です。そのうえで各種の理学療法を行なうわけですが、ヘルニアの原因は筋力や腱の弾力性の低下にあるので、鍼治療ではそれらの回復をはかることに主眼を置きます。鍼治療により筋力が上がれば、背骨を束ねサポートする筋肉本来の働きが機能しはじめ、椎間板が少しずつ本来の位置に戻っていゆく可能性が高くなります。活脳鍼を併用することで、脳の痛みの感作が取れます。
当院が最も得意する疾患です。
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●不妊症

妊娠を希望して一定の性生活を行っているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態を不妊症といいます。この一定期間は、日本では2年以上とされていますが、一年経過したら不妊症の検査や治療を開始することもあります。

【原因】
女性不妊症の原因としては、排卵の障害、卵管の障害、そして子宮や頸管の異常に分けられます。また男性側の原因には、精子をつくることができない造精機能障害と精子を排出することができない排精機能障害があります。
【治療】
人工授精は精液を直接子宮内に注入する方法で、ほかに明らかな不妊の原因がない場合や、精子の状態が不良な男性不妊や頸管粘液分泌不全がある場合などに行なわれます。夫の精液を注入する配偶者間人工授精と、夫以外の精液を用いる非配偶者間人工授精があります。それ以外の方法としては、性感染症や子宮内膜症などが原因となっている場合に、腹腔鏡で癒着を剥離したりすることがあります。
◆鍼治療
鍼灸の不妊症治療の歴史は古く、鍼灸の得意分野の一つでもあります。とはいっても、子宮などに器質的な疾患がある場合は治療の対象とはなりません。ホルモンの働きが低下して排卵が順調にいかないなど、内分泌系の障害によって不妊症になっている場合が対象です。鍼治療には、ホルモン分泌のバランスを整え、妊娠しやすい体質に変える効果があり、そのような不妊症にはじつに効果的です。実際、鍼灸によって妊娠率が大幅に向上したという研究結果が、日本や中国ばかりでなく欧米からも盛んに報告されているのです。また、原因がホルモンの乱れにある場合には、男性の不妊症にも効果があります。
不妊症のツボの主なものとしては、へその両側にある天枢、へその下の気海、乳首の真下にある期門、内くるぶしの三陰交などがあります。
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●緑内障

私たちの目には、血液の代わりとなって眼球に栄養などを補給している房水が流れています。通常、房水は、流れ込む量と排出される量のバランスがとれていて、その圧力(眼圧)が眼球を球形に保っています。しかし、何らかの原因で流れ込む量が排出量を上回ると、いろいろな障害が起こってきます。これが緑内障です。

【原因】
緑内障は房水の出口である隅角の状態によって、大きく二つに分けることができます。隅角が狭くなって起こるのが閉塞隅角緑内障、隅角の働きが悪く房水が流れにくくなるのが開放隅角緑内障です。一般的には、急性緑内障は閉塞隅角緑内障で、慢性緑内障が開放隅角緑内障です。
【症状】
急性緑内障の場合には、急激に眼圧が上昇して、目の痛みや頭痛、吐き気などの症状が起こります。反対に、慢性緑内障ではほとんど自覚症状がないまま病気が進行するのが一般的です。慢性緑内障の唯一の自覚症状は視野の一部に見えないところができることですが、通常両目で見ているため、互いの視野でカバーされ、進行するまでなかなか気がつかないことが多いようです。
【治療】
緑内障の治療は病状に合わせて選択されます。大多数を占める慢性緑内障では、視野異常が進行していなければ、まず薬物による治療から始めます。大きく分けて5種類の緑内障治療薬があり、緑内障のタイプ、眼圧の高さ、視野異常の進行度などに合わせて処方されます。
薬やレーザー治療、手術療法で眼圧がある程度下がっても、それで治療が終わるわけではありません。定期的に視野検査を受け、視野障害が進行していないことを確認して、初めて治療が順調であるといえます。また、眼圧はいったん安定しても治療を中断するとまた変動します。緑内障は生涯にわたる管理が必要となります。
◆鍼治療
眼圧の異常は眼の病気というよりも、全身病としての視点が必要だと思われます。そこで、全身的な異常から起きた眼の症状を治すとされている肝経、胆経のツボを用います。肝経、胆経は経絡の一種で、簡単にいえば、肝臓や胆嚢の働きをコントロールするツボが並んだ一連のルートといえます。具体的には、胆経の光明という目専用のツボや、足の親指と人さし指との間の肝経の太衝などのツボを用います。また、手の沢田流合谷というツボも有効です。
活脳鍼を併用すると、脳血流がアップしますので、回復が早まります。
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●うつ病

うつ病は、興味や活力がなくなり、気分が沈んでゆううつになる病気です。旧約聖書にも出てくるなど古代から記録されていますが、現代のようなストレス社会では誰がなっても不思議ではありません。

【原因】
原因はわかっていませんが、生物学的要因、遺伝的要因、心理社会的要因が相互に作用し合って発症すると考えられています。生物学的要因としては、セロトニンという神経伝達物質が関与しているという説が有力です。
【症状】
うつ病の重要な症状は、抑うつ気分と興味や喜びの喪失です。気分が沈みこみ、日ごろ興味や喜びを感じていたものにも気持ちが動かなくなります。また、疲れやすくなり、思考力や集中力、注意力、記憶力、判断力などが低下します。これらの症状は、とくに午前中に強くなるのが特徴です。睡眠障害もよくみられます。
うつ病で、とくに注意が必要なのが自殺です。うつ病の人の3分の2はどこかで自殺を考え、それをほのめかすことも少なくありません。気力や活力が低下しているピーク時は比較的心配ありませんが、症状が改善され、自殺を企て実行するのに必要な気力が回復し始めるにしたがい、自殺の危険性が高くなるので、周囲の人は注意しましょう。「がんばれ」などと励ますのはかえって危険で、温かく回復を見守ってあげることが大切です。
【治療】
休養と薬物療法を治療の基本として、それに精神療法を組み合わせるのが最も効果的と考えられています。同時に、生活上のストレス因子の数や重症度を減少させることも必要です。ものごとを否定的にみない、人と比べないといったことを心がけ、ストレスに強い性格に変えていく努力をしましょう。
薬物療法ではさまざまな薬が用いられますが、セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が、副作用の危険も少なく、効果が高いことからよく用いられます。
◆鍼治療
うつ病は鍼灸がよく効く病気の一つです。鍼灸のもつ、神経調整作用が働くためと考えられます。主に用いられるツボは、百会、至陽、霊台、商陽、膈兪などで、鍼だけでなく、灸も効果があります。また民間療法としては、青ジソの葉が効きます。青ジソの葉には気分を高揚させる作用があるのです。5~6枚の葉を200㏄の水で5分ほど煎じて、夕食後に飲むとよいでしょう。活脳鍼で左脳の血流を増加させると、回復が早まります。
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東洋医学と西洋医学の違い

病気ではなく、病人を診る東洋医学

鍼灸などの東洋医学が、本格的に見直されるようになってずいぶんたちます。時期的にいえば、ガンや脳卒中など生活習慣病がマスコミで頻繁に取り上げられるようになったころです。それまで結核をはじめさまざまな病気を克服してきた西洋医学が、生活習慣病には根本的な対抗手段が見つからず、西洋医学とまったく違った理論をもつ東洋医学に期待が集まったからです。
東洋医学と西洋医学の最も大きな違いは、治療の対象をどう捉えるかにあります。西洋医学の場合、ある一つの病気がどういったメカニズムで起こるかを突き止め、その原因を除去することで病気を治そうとします。

一方、東洋医学は、体の機能が本来のバランスを維持していれば病気にはならない。病気はそのバランスが崩れた結果起こるものであり、崩れたバランスを元に戻せば病気は治ると考えます。西洋医学的な表現でいえば、病気は自然治癒力の低下が原因で起こるので、自然治癒力が回復すれば病気は治るというわけです。
ただ、同じ症状があらわれていても、何が原因でその症状を引き起こしているかは、まちまちです。そのため、「陰・陽」「虚・実」「気・血・水」といった東洋医学の基本となる観点から、体質などを含めて患者を総合的に診察し、治療法を決定します。したがって、同じ症状がみられても、患者さんによって、鍼を打つ場所も違えば、処方する薬も違うというケースがしばしばあります。診察して病名が確定すれば、多少の選択肢はあっても、基本的にどの患者さんにも同じ治療を行なう西洋医学とは大きな違いです。

ちなみに東洋医学の場合、治療法を決定する前に、「望」「聞」「問」「切」の4種類の診察を行ない、さまざまな角度から患者さんの健康に関する情報を集め、その人の病状を判断します。この四つの診察法を四診と呼んでいます。望診は、顔の色やつや、眼の輝き、姿勢、舌の状態などを見るもので、聞診は、患者さんの声の大きさや張り、呼吸音、せきの音などから健康状態を判断します。問診は西洋医学の問診と同じです。切診は西洋医学でいう触診にあたり、脈拍の速さやリズム、むくみの有無、腹部の張りなどを調べます。特に脈の性状を調べる脈診はもっとも重要で、これにより大かたの病状は把握できます。
いってみれば、西洋医学が「病気を治す」のに対して、東洋医学は「病人を治す」ことを目的としているのです。

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検査・診断技術にすぐれる西洋医学

東洋医学が西洋医学にない特徴をもつのと同様に、西洋医学にも東洋医学では望めないさまざまな長所があります。
その一つが診断法です。東洋医学で診断の根拠となる四診は、すべて医師など治療者の感覚的な診断にもとづくものです。したがって、医師なり鍼灸師なりの経験と観察力が、診断に大きく影響してくるわけです。
その点、西洋医学では、血液検査などの各種検査で、体の異常が具体的な数値として示されるので、一定の基準値を超えているかどうかが誰にでも判断できます。客観的な根拠をもとにした診断は、科学的に病気のメカニズムを解明することをめざしてきた西洋医学ならではのメリットです。
とくにCTやMRIなど、体の内部の状態を詳細に映し出す画像診断は、東洋医学が得意とする慢性疾患においても、病状を迅速かつ的確に把握するうえで大きな役割を果たします。
また、治療の面でも、西洋医学にはすぐれた点がいくつもあります。なかでも感染症の治療については、東洋医学をはるかに引き離しているといってよいでしょう。西洋医学であれば、抗生物質を投与することですみやかな効果があらわれます。しかし東洋医学の場合は、感染症を治すにしても自然治癒力、つまり免疫力を高めることで、間接的に細菌などを駆逐するわけです。免疫力は一朝一夕にして高まるわけではありませんから、急性の感染症は手に負えないのです。

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副作用がつきまとう西洋医学の宿命

西洋医学の欠点としては、副作用の問題があげられます。
私たちの体は、それぞれの臓器が独立して機能しているわけではなく、互いに調節しあって働いています。異常が生じた器官だけを標的としてその異常を正そうとすれば、必然的にほかの器官にも影響を及ぼします。その影響がよいほうにあらわれるか、無害な程度におさまるのであれば問題ありません。しかし、連携しあっている一部を強制的に動かそうとするのですから、どうしても悪い結果が出がちです。

薬についても同じことがいえます。抗生物質は細菌を殺す作用がありますが、その力は同時に私たちの体にも発揮され、さまざまな副作用を引き起こします。抗ガン剤に代表されるように、効果が強ければ、それだけ副作用も強くなるのが西洋薬の宿命といえるでしょう。
東洋医学には、こうした心配はありません。免疫に対する賦活作用やホルモン調整作用、血行促進作用、神経への働きかけなど、多角的に体に働きかけることで、体全体のバランスを保ちつつ病気を治していくからです。漢方薬に副作用が少ないのも、同じ理由によります。副作用の有無は、東洋医学と西洋医学の違いを示す典型的な例といえるでしょう。

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生活習慣病は東洋医学の得意分野

東洋医学と西洋医学の理念の違いは、生活習慣病に対する効果にもあらわれています。
「原因を突き止め、その原因を排除する」のが西洋医学の基本ですが、生活習慣病はいくつもの要因が複雑に絡み合って起こります。
たとえば、糖尿病の場合、直接の原因は膵臓の機能低下によるインスリン分泌の低下ですが、インスリン不足を起こす要因は高血圧や動脈硬化、肥満、免疫異常、妊娠などさまざまです。西洋医学の場合は、これらの原因を一つずつ排除していくわけですが、容易なことではありません。
東洋医学の原典ともいえる『黄帝内経素問』に、「昔の人は100歳を過ぎても元気だったのに、最近の人間は50歳にもならないうちに半病人みたいになってしまうのはなぜか?」という疑問が記されています。そして、その答えとして、昔の人は「養生の道をよく心得て自然に従い、飲食に節度があり、規則正しく寝起きし、過労には注意した。だから心身ともに健やかに寿命をまっとうした」といい、それに対して、今の人間は、「酒を飲みすぎ、欲望のままに行動して心身を疲れさせ、自然に反した生活をしている」から半病人のようになってしまうと指摘しています。
もちろん、この問答でいう「昔の人」「今の人」は、この書が記された2000年前の人を指しています。しかし、生活習慣の乱れや心身のストレスこそが病気の原因であり、節度のある自然な生活こそ健康と長寿の秘訣であるとの指摘は、生活習慣病に悩む現代人の生き方を予言したかのように、ピタリと言い当てています。
東洋医学では、何よりも自然ということを重視します。自然な生活とは、とりもなおさず、自然な健康状態、本来あるべき体の状態を意味しています。さまざまな作用によって自然治癒力を高める東洋医学が、生活習慣病に高い効果を発揮するのも、このような考え方に立って治療を行なうためなのです。

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東洋医学と西洋医学の融合こそ本来の治療のあり方

東洋医学にも西洋医学にも、互いにないすぐれた長所があります。基本理念が異なるからといって、互いの長所を否定していたのでは、患者さんに適切な医療を提供できません。
西洋医学は感染症などに対する薬物療法や外科手術の面ですぐれた実績をあげてきました。しかし、これまで述べてきたように、病気になった部分だけでなく、全身の状態をトータルに改善するという点では東洋医学のほうに一日の長があります。互いに必要な部分を補い合いながら、治療に取り組むことが今後ますます求められるでしょう。
たとえば鍼灸の場合には、生活習慣病や自律神経失調症、心身症といった内因性の病気のほか、疼痛の除去、病気の予防、健康増進などにも効果があります。それらの効果を実際の治療に生かしていくためには、医師には鍼灸に対する知識が、鍼灸師には西洋医学と連携するための医学知識が必要です。
また、治療を受ける患者さんの側にも、西洋医学と東洋医学それぞれの特徴を理解し、自分の病状に応じて、使い分ける判断力が求められます。鍼灸治療を受ける人には、西洋医学で治らないために最後の手段として、鍼灸院を訪れる人が少なくありません。しかし、このような考え方は、けっして望ましいものではありません。
鍼灸も西洋医学と同様に、早めに治療を始めればそれだけ効果も高くなります。そして、西洋医学のすぐれた検査技術で得られた患者さんの情報は、鍼灸師が治療法を選択するうえでもよい参考になり、より適切な治療が行なえます。病気を治すためには、最後の手段として鍼灸を選ぶのではなく、最初から西洋医学と鍼灸を併用するほうがはるかによいのです。
現在、日本では医師の承諾がないと、鍼灸に保険がききません。その点では、医師と鍼灸師の連携が必要になります。しかし、それ以前の問題として、患者さん側も鍼灸の特徴をよく理解したうえで、必要に応じて鍼灸の併用を考える姿勢が必要になるのではないでしょうか。

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高い地位を得ている海外の鍼灸事情

欧米では東洋医学は先端医学の一つ

日本では、明治時代に西洋医学が本格的に導入されるまで、鍼灸が漢方と並ぶ医療の2本柱でした。この西洋医学が導入された明治時代は、フランスのパスツール、ドイツのコッホらによって病気の病原菌説が確立されるなど、西洋医学が大きく進歩した時期でもあります。そのため政府によって医学=西洋医学と定義されると、ほとんどの日本人は西洋医学こそ正しい医学であり、従来の漢方や鍼灸は古くさく、  効果が薄い治療法であると思い込むようになってしまいました。もちろん、これは一般の人に限らず、むしろ医学を志す者のほうが、西洋医学は万能、という考えが強かったからかもしれません。その後、医療の中心はあくまで西洋医学であり、東洋医学は補完的な立場しか与えられてきませんでした。
しかし、現在では、病気によっては東洋医学のほうが効果的な場合があることがわかってきました。そして1979年には、世界保健機関(WHO)が41の疾患に対して、鍼治療の効果があることを認めています。WHOが認める適応症はその後、次第に増え、現在は★ページの表のようになっています。これらの疾患は、鍼治療本来の適応症のほんの一部でしかありませんが、今後、計画的な臨床データの蓄積が進むにつれて増えていくことが予想されます。
このような状況のなか、欧米では、積極的に東洋医学が研究され、医療の現場に取り入れられています。なかでも、研究が活発なのはドイツやフランス、アメリカなどで、これらの諸国では、いまや「東洋医学にうとい医師は勉強不足」として軽視されるほどです。ちなみにドイツでは、医師の約70%が鍼治療を取り入れているといわれ、アメリカでは、最近、エイズの治療に鍼灸が高い効果をもつとの研究結果が報告されています。また、英国医学界も、2000年に鍼の有効性を認める声明を出しています。

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保険制度にみる日本と欧米の鍼灸事情

日本と海外の鍼灸に対する捉え方の違いを、端的に示すのが健康保険です。
日本では、保険の適応となる病気が神経痛などわずか6疾患に限定されているうえ、診療時に費用の全額を支払い、保険から給付される分については、あとで保険者(国や健保組合)に請求して払い戻してもらうという療養費扱いになっています。また、医師の同意書が必要であること、一般の病院で治療中に療養費で鍼灸治療を受けた場合には保険が認められないなど、さまざまな制約があります。
これに対して、欧米では、一般の病気と同じように、鍼灸の治療にも保険がききます。慢性疾患の場合、治らないまま病院で治療を受け続けるケースが多く、それが医療費の増大を招く一因となっています。鍼灸は慢性疾患に強く、アメリカでは、民間保険会社の健康保険に加入することが多いのですが、その民間保険会社は鍼灸治療を保険対象とすることで医療費を大幅に節約したといわれています。現在は公的保険でも鍼灸治療を認める州が増えてきています。
患者に対して最も効果のある医療を提供すること。そのためには、先入観念を取り払って、効果が期待できる治療法を積極的に研究し、実際の医療に取り入れてゆく。そうした柔軟な思考法が、医療費の節約という社会的な側面でも大きな効果を発揮しているのです。
医療費の増大は、日本でも大きな問題になっています。これについてはさまざまな対策が議論されていますが、欧米のような柔軟な発想がなければ、根本的な解決は難しいのではないでしょうか。鍼灸の保険適用は、医療費節約の面からも早く実現すべきである、と私は思うのです。

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中国の鍼灸事情

中国でも、鍼灸に対する考え方は進んでいます。進んでいるというよりも、根づいているといったほうが適切でしょう。それも、とても深く、です。
現在の中国における医学は、中国医学(中医)と西洋医学(西医)に分けられます。プロローグでも少し触れましたが、中国の医科大学には、西医を中心に学ぶ一般の医科大学と、中医を中心とする中医学院の二つがあります。そして、前者では中医を、後者では西医を授業全体の30%ほどを費やして学ぶのです。
このため中医の医師でも基本的な西洋医学の理論と治療法は理解していますし、西医の医師でも簡単な鍼灸治療程度なら、中医の医師を紹介するまでもなく自分で行なってしまいます。もちろん、全身にあるツボと、その効用も知っています。西医の病院を受診してきた患者に対しても、中医のほうが効果的だと思えば抵抗なく、中医の病院・医師を紹介してくれるのです。私は、中国研修中に、何度もそうした現実に遭遇しました。欧米以上に、対処法が柔軟なのです。鍼灸に保険がきくことは、いうまでもありません。
患者さん側も鍼灸をよく理解していて、「こんな症状のときは鍼灸がいい」「こんな病気は西医がいい」と適切に判断して、使い分けています。医師と患者、それを取り巻く社会制度が、鍼灸がもつ高い効果を認め、その効果を誰もが享受できるシステムが、中国では確立されているのです。

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日本の医療に求められるもの

患者にとって最もよい医療とは、最も効果が見込める治療をすることです。そして、その観点に立てば、プライドなどにこだわりなく、適切な治療法を行ない、紹介するのが本来の姿です。
私は、日本の医師がプライドにこだわって、鍼灸を軽視しているとは思っていません。一部にはそういう人もいるかもしれませんが、大部分の医師は少しでも効果の高い治療法があれば、喜んで紹介してくれるでしょう。私は、鍼灸を学ぶ前まで日本の病院で放射線技師として働いていたので、そのことはよくわかっています。
ただ、残念なことに、鍼灸を理解している医師が少なく、そのために「より効果的な治療法」を検討する際に鍼灸が除外されてしまいがちなのです。
中国のように、東洋医学を専門とする医師が認められるのが理想ですが、これは一朝一夕にはできないでしょう。当面は、日本の医師にもっと鍼灸のことを理解してもらい、西洋医学による治療絵と鍼灸の連携がスムーズにできるよう期待したいものです。世界は鍼灸に高い評価を与えています。

世界保健機構(WHO)が認める鍼灸の適応症>>
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