「DHA(マグロの目玉)はどのように頭をよくするのだろう・・・」

一時、マグロの目玉が食材として話題をよびました。含有するところのDHAが頭のはたらきをよくするというのが理由でした。DHAはW-3系列の不飽和脂肪酸(注1)に分類される脂肪酸です。W-3系列不飽和脂肪酸を多く含むものはそのほかに青色の魚、亜麻仁油、くるみ、キーウィフルーツなどがあります。DHAが本当にいわれるような効果をあげるのか―オーストラリア、インドネシアでテストが行なわれています。

DHA88m+EPA22mgを1日量として6~12才の学童約4000人に6ヶ月と12ヶ月間服用してもらい、言語、学習、記憶に関する能力の変化を観察しました。一定の効果が認められました。同じようなテストはイギリスでも行なわれていて、同様の結果が観察されています。但し以上は、頭脳発達期の学童についてのものです。成人についての集団的なテストの報告はまだないようですが、W-3脂肪酸が不足している食事では集中力低下、失読症、認知症、うつ病、双極性障害、統合失調症になるリスクが増すとのことです。

DHAは脳神経細胞の相互接続(シナップス形成)によるネットワーク形成の促進、シナップス部位の膜流動性の増強などを通じて認識能力を高めるとともに、神経細胞内で発生する活性酵素の消去、ブドウ糖(エネルギー源)の利用率をあげ、ミトコンドリア(細胞内小器官―エネルギー生産担当)の働きを促進するなど代謝面にも寄与しているそうです。ヒトはDHAを体内で合成できないため、食から摂取する必要があります。ではDHAは脳内でどのように働くのでしょう…。

DHAは海馬(注3)(大脳辺縁系を構成する部位の一つ)における脳由来神経細胞栄養因子(BDNF)のレベルを上昇させると報告されています。BDNFは海馬と視床下部(これも大脳辺縁系を構成する部位)に最も多くあるといわれています。海馬は記憶、視床下部は代謝に関与します。一つの課題をこなすと海馬でのBDNFによるシナップス形成が増す、BDNFに関する遺伝子を除去すると記憶形成が障害される、BDNF遺伝子に関連する異常がヒトにもあり記憶形成の異常がある、などの報告があります。これらはBDNFが海馬の記憶形成にとって重要なものであることを示しています。

視床下部には視床下部メラノコルチン4受容体という受容体があります。エネルギーバランスをとる上で必須のものであると同時に、視床下部におけるBDNFの発現もコントロールしています。従って視床下部はエネルギー代謝とシナップス形成の両方に関与していることになります。BDNFにも受容体(TrkB)があります。ヒトでのTrkBの遺伝的変異は多食性肥満と同時に学習及び記憶の障害をあらわすと報告されています。DHAが属するW-3不飽和脂肪酸に対して、飽和脂肪酸及びトランス型(注3)脂肪酸は摂取量が多いとW-3脂肪酸とは逆の作用を認知能力に及ぼすとのことです。

齧歯類にいわゆる「ジャンク・フード」(特徴―飽和脂肪酸と砂糖の高含量)を3週間与えたところ認知能力の低下と海馬のBDNF関与のシナップス形成の減少が認められたそうです。これは食餌によりインスリン抵抗値が増したとか、肥満とかによるものではなく、食餌の神経細胞への直接作用であると理解されています。DHA或はジャンク・フードはBDNFに影響を与えていました。BDNFの変動により海馬、視床下部の機能は増減していました。この増減は単に海馬、視床下部に限局するわけではなく連絡する神経線維により、大脳辺縁系全体にひろがり更にこの系の外に拡大していきます。

海馬、視床下部のBDNFに影響を与えるものは脂肪酸類だけではありません。消化管機能をコントロールする迷走神経、消化に関係する臓器の分泌するホルモン、摂取カロリー過大過少なども同様に影響することが報告されています。こうしてみると健脳食というものの実体はある、それは食材と食事の仕方(特に楽しく食する)とからなるということになるのでしょうか…。

注1) 図1

 

 

 

 

 

図1は脂肪酸の構造です。炭素原子(c)が鎖状に結合、CとCの間の結合手が1本だけの結合からなるものが飽和脂肪酸、上図の場合のように結合手が2本である結合を含むものが不飽和脂肪酸

注2)   -C=C-部分に結合する水素原子(H)の配置には図2のように2通りあります。

各々

H H               H

-C=C- :シス型         -C=C- :トランス型

H

マーガリン:トランス型脂肪酸を含む、トランス型脂肪酸は天然脂質に水素を添加して脂肪酸をつくる時に生じる。ヒトはこれを代謝できない。

W-:図1のように、メチル基(-CH3)のCを1番として順次Cに番号をつける、C9とC10の間に二重結合があればW9族を系列化される。W-3はC3、C4間に二重結合。

 

図2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注2) 図3大脳辺縁系(太線内)

 

 

 

 

 

 

 

図:下記書籍より一部加筆等変更 ハーパー・生化学  丸善株式会社 解剖学アトラス  文光堂

 

文献:NATURE REVIEWS NEUROSCIENCE 568 JULY 2008 VOLUME9

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