「トランス油健康被害キャンペーンに対する米国消費者」

 

食品原材料名表示ラベルに時々「トランス油」という文字を眼にします。トランス油は植物油に水素付加し硬化油にする過程で形成されます。この構造物が細胞膜にとりこまれると細胞膜にとって重要な性状である膜の流動性が低下するといわれています。2006年4月、トランス油と心臓冠動脈疾患との関連を示す科学的総説が出版されています。トランス油の摂取は心臓冠動脈疾患、心臓を原因とする突然死、糖尿病などをおこす危険率を上昇させる他、下記のような様々な生体にとって不利な状況をおこすことが判明しています。

 

○血液中の低比重リポタンパク(LDL)、中性脂肪(TG)などの増加

○高比重リポタンパク(HDL)、LDL粒子サイズの減少。

 

これらは冠動脈疾患の危険率上昇につながります。また体内に炎症をおこし促進させる物質(インターロイキン6、細胞接着分子など)を増加させ、血管の機能を維持するに重要な血管の最内側にある血管内皮の機能を低下させます。しかしながら食品製造の立場からは製品の在庫可能期間を長くすることができる、フライ処理時の酸化に対し安定、パンや焼き菓子などの味わい或は感触をよくする、取り扱いに便利、などの性質があることにより、メリットの多い油なのだそうです。

 

トランス油は工業的な製造過程からだけでなく、天然のものも存在します。牛、羊など反芻動物の胃中の微生物によっても生産され、これが肉や乳にまわるからです(含有量2~5%とのこと)。この場合は動物に与える飼料を変えることで含有量を低下させることができるそうです。反芻動物由来のトランス油については心臓冠動脈疾患との関連を調査した報告はないようです。以上、トランス油は健康上有害となる性状があり、その証拠もあがってきていることから、2006年12月ニューヨーク市(U.S.A)2007年10月フィラデルフィア(U.S.A)ではトランス油の食品への使用が禁止されました。

 

FDA(アメリカ食品医薬品局)は2006年1月1日から食糧加工品に一人前0.5gをこえるトランス油を含む場合はその量を表示することを義務づけました。こうしたことに伴ってトランス油関連のニュース報道によって消費者への注意喚起が何回もなされました。さて、消費者の購入行動パターンにどのような変化がおきたでしょうか。

 

2005年1月~2007年6月までの約1.5年間、ロサンゼルス郡(U.S.A)全域にチェーン店を展開する食料雑貨店でのトランス油含有食料製品の購買パターンが調査されています。調査対象製品はトランス油含有量一人分当たり6gのもの一種、4gのもの一種、3gのもの一種、2.5gのもの一種、1.5gのもの二種、1gのもの一種(これはホットドッグ)の7品目。トランス油に関する警告のニュース報道後の販売個数を追跡しています。それによると、消費者への購入抑制効果はニュース報道後の一週間までが良好であるがその後の三週間は漸次うすれていき、その効果は維持されないのでした。

 

消費者はトランス油含有量4g以上のものに対してはつよく抑制されるもののそれ以下の含有量のものについては含有量のちがいによる抑制効果の差は認められませんでした。この中で含有量1gのホットドックは全く影響をうけませんでした。理由は不明なのです。含有量1g位なら大丈夫と考えたのか、ホットドッグは食生活に欠くことのできないものになっているのか、ホットドッグのトランス油(ホットドッグの牛肉に由来するもの)は天然のものだから大丈夫と判断したのか、わかりません。

 

消費者の行動パターンから、製品中のトランス油含有量を減少させる政策とトランス油による健康への被害に関するキャンペーンを計画的に反復することの二つが必要だと結論しています。さて、ロサンゼルス郡の消費者を我々におきかえた時、我々の反応パターンは多分同様の行動パターンとなるのではないでしょうか。自己の生命が直ちにおびやかされるときは速やかに反応しますがじわじわと及んでくる危険に対しては極めて鈍感に反応し、しかもその反応が長続きしないのが一般です。その害が自分の身にあらわれた時の姿が見えないことによるのでしょう。

 

日本では原材料表示ラベルにトランス油の記載があっても含有量(グラム数)は記されていません。カロエ油、ファットスプレッド、マーガリン、ショートニングなどの名前もみうけます。これらもトランス油を含むものと理解すべきです。日本国内食品メーカーは当然のことですが「マーガリンは安全」の立場をとっています。ですが他方、トランス油含有量を減らし、それを明示しているメーカーもあります。通常我々が購入するマーガリンのトランス油含有量は約7%だそうですが含有量2%以下、0.5%などのものも市販されているそうです。なお2009年末知る限りではトランス油に関する規制はないようです。

 

文献

Am.J.Prev.Med 2009;36(5)、395-401

N.Engl.J.Med 2006;354 1601-13

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